当寺所蔵涅槃図

 この絵は享保9(1724)年に斎藤助の丞という絵師が描いた涅槃図で、 21名の志納者から浄財を賜り玄忠寺第6世誠譽の代に当寺に寄贈されました。表装部分を含め幅2.3m、長さ4.3mの大きな掛け軸になっています。

 

 涅槃図はお釈迦さまご入滅の姿を描いたものです。涅槃とはサンスクリット語(古代インド語)”ニルヴァーナ”の音訳で、「ロウソクの火が消えた状態」という意味です。時に燃え盛り他人を傷つけ我が身を滅ぼす煩悩の心をロウソクの火に喩え、その火が消え安らかになった悟りの状態を涅槃といいます。

 

 お釈迦さまは命を終える前に俗にいう北枕、頭北面西の姿で横になり、周りには多くの仏弟子や、阿修羅、帝釈天などの神々、天上界からはお母様である摩耶夫人が舞い降り、動物、昆虫までもが集まり別れを惜しむ様子が描かれています。

 

 また平家物語にもうたわれている沙羅の木が描かれており、お釈迦様を囲むように生えている事から沙羅双樹と呼ばれています。よく見ると右側4本の木は枯れており葉が白く色褪せています。4本の木は枯れ残り4本の木が生き残り繁茂している事からこれを四枯四栄と呼び、無常と永遠を喩えたものだと言われています。相反する言葉ですがどういう事でしょうか。

 

 仏教の教えの一つに諸行無常という教えがあります。この世に生を受けた生き物は、あるいは命がないとみなされる石や道や建造物など、ありとあらゆる物質にも永遠不滅のものはない。あるいは世の中の出来事、ものごとには何一つ不変なものはなく、全ては常に移り変わっていくという考え方が諸行無常です。我々の一生もそのうちの一つで、この世での人生は一時の幻のようなものであるとも表現されます。

 

 一方四枯四栄の意味する永遠とは、仏教の永続性を喩えたものです。私たちのありのままの姿、人間の性分・煩悩というものを解き明かしたものが仏教であり、それによって生まれる苦しみをいかにして和らげれば良いのかを説いています。

 

 お釈迦さまの言葉を支えとして有意義な人生を送りたいものですね。

 

 涅槃図はご命日とされる2月15日の前後、当寺本堂にて展示をしています。